せっかく導入したツールが、数か月後には誰も触らなくなっている。支援の現場で、こうしたケースを数多く見てきました。
シリーズ「社長のためのDX」の最終回は、DXの「定着」について整理します。始め方や決め方がうまくいっても、定着しなければ成果にはつながりません。
結論:定着しない原因は「特定の1人に任せきり」にしていること
定着しないDXに共通する原因は、突き詰めると運用を特定の1人に任せきりにしていることです。
詳しい人や積極的な人が1人で回している状態では、その人が忙しくなったり、異動や退職をしたり、ほかの業務に追われたりした瞬間に、仕組み全体が止まってしまいます。
ツールが「あの人が使っていたもの」で終わるまで
うまくいかなくなる現場の流れは、だいたい共通しています。
- 詳しい社員や意欲のある担当者が中心になって導入を進める(ここまではうまくいく)
- 運用ルールの共有や、ほかのメンバーへの使い方の説明まで手が回らない
- 運用がその1人に集中する
- その人が忙しい時期には更新が止まり、異動や退職があると誰も触れなくなる
結果として、導入したツールが「あの人が使っていたもの」で終わってしまいます。これは、ツールの性能や使いやすさの問題ではありません。運用が1人に依存している状態そのものが、定着しない一番の原因です。
事例:「全員DX」を掲げた建設会社
山形県の株式会社後藤組は、「全員DX」を掲げ、現場の社員自身がアプリを作る文化をつくりました。同社によると、現場書類は約60%削減、残業時間も一人あたり20%以上削減したとのことです(出典:株式会社後藤組「DXの取組」公式サイト、2026年9月確認/IPA DX SQUARE「【建設業】DX推進事例6選」2022年11月16日掲載)。
ここまで徹底するのはハードルが高いと感じるかもしれません。しかし、「特定の1人ではなく、関わる人みんなが最低限は扱える」という方向性は、どんな規模の会社でも目指せる形です。
「複数人が最低限扱える」状態にするための具体策
大がかりな仕組みは必要ありません。次のような小さな取り組みで十分です。
- 簡単な操作マニュアルを1枚つくる:画面の写真と手順を並べただけのものでも、担当者以外が触れるようになります
- 月に一度、社長も入って運用状況を確認する場をつくる:使われているか、困っていることはないかを確かめるだけでも、放置を防げます
一人だけがロウリュのやり方を知っている状態
これは、サウナでいえば「一人だけがロウリュのやり方を知っている」状態に近いと考えています。その人がいなくなった瞬間、誰も温度を上げられなくなってしまう。せっかく良い設備があっても、みんなが使い方を知っていて、初めて続けられるものになります。

まとめ:「誰か1人が頑張る」から「みんなが最低限扱える」へ
- 定着しないDXに共通する原因は、運用が特定の1人に依存していること
- 詳しい人に頼るところから始まるのは自然。ただし、そこで終わらせない
- 操作マニュアル1枚と、月1回の運用確認から始める
このシリーズでは、①言葉を変える ②紙やExcelを悪者にしない ③導入前に決めごとをする ④定着は1人に任せきりにしない、という4つをお伝えしてきました。難しく考えず、この4つから始めてみてください。「導入したツールが定着しない」という場合も、まずは今の運用状況を一緒に整理します。
シリーズ「社長のためのDX」
- ① 「DX」という言葉を使わずに、現場のデジタル化を始める方法
- ② 紙とExcelは悪者ではない。デジタル化すべき業務を見分ける2つの基準
- ③ ツールを1つ入れる前に決めておくべき3つのこと
- ④ 定着しないDXに共通する、たった1つの原因(この記事)




